はじめに
独立からわずか半年余りで、収入は勤務時代の数倍に。自分から営業をかけず、紹介だけで案件が絶えない——スケーレンス株式会社代表の林峻人さんだ。
あずさ監査法人、IPOを目指すスタートアップ2社、エスネットワークスを経て独立。事業会社で培った経営企画の実務経験を武器に、IPO支援の中でも担い手の薄い「経営企画領域」で存在感を発揮している。会計士Villageに通い始めて約1年になる林さんに、独立1年目のリアルを聞いた。
「3年で最後」と決めた在学中合格
林さんが会計士試験に合格したのは2012年、大学3年のときだ。大学入学と同時にダブルスクールを始めたが、短答式には何度か落ちた。それでも4年生での再挑戦は考えなかったという。「勉強だけの大学生活になってしまうのは、後悔するかもしれないと思った」。
「これで最後にする」と決めて臨んだ3年時の試験で合格をつかみ、4年時はサークル活動など残りの学生生活を満喫した。期限を区切って全力を注ぐ——後のキャリア選択にも通じるスタイルが、すでに表れている。
あずさ監査法人からスタートアップへ——「数字を作る側」に
2014年にあずさ監査法人へ入所し、シニアとして小規模上場会社のインチャージ(主査)を数社担当するまで経験を積んだ。転機は「監査はどうしても、会社が作った数字を見る側」という気づきだった。数字を作る側に回りたい——IPO達成を一つのマイルストーンに掲げ、スタートアップへ飛び込んだ。
2社のスタートアップでは、1社目で経営企画室長を3年半務め、事業計画の策定など経営企画の実務を一通り経験した。「独立して半年ちょっとの今、一番多くやらせていただいているのが、この事業会社経験をもとにしたIPO支援。会社の中の人としてIPO推進をやった会計士は進め方も理解している。価値が出せる領域だと思う」。
独立から逆算したエスネットワークス——3年で武器をそろえる
スタートアップ2社目を辞める頃には、独立の意思は固まっていた。次の転職先は「独立後に何をやっていくか、何を強みに売上を立てるか」から逆算して選んだという。それがCFO領域の支援を手広く手がけるエスネットワークスだった。
「いろいろなスペシャリティを持った方がたくさんいる会社。DDやValuationのように、知ってはいてもやったことのない領域を経験できた」。PMI(買収後の体制整備)支援、IPO支援、LBOモデリングと幅広く手がけ、マネージャーとして案件の提案・営業にも携わった。在籍は「入る前から3年」と決めており、プロジェクトマネージャーを務めた大型案件の区切りとともに、予定どおり独立へ踏み出した。
メイン業務は「経営企画」——IPO支援の中のブルーオーシャン
林さんはIPO支援という広い領域を、こう分解してみせる。プロジェクト全体を統括するPMOがいて、その下に財務・経理・法務・経営企画といった部署が連なり、それぞれが上場企業レベルへの引き上げを求められる。「部署の数だけ支援領域は分解できる」。その中で林さんが手がけるのは、PMO・経理・経営企画の3つだ。
とりわけ引き合いが多いのが経営企画だという。「経理領域は会計士ならほぼ皆さんできる。でも経営企画は、カバーできる人材が薄い。入り込める余地がある」。経営企画室長として自ら事業計画を作ってきた「手触り感」が武器になっており、60社分の事業計画を作り上げる大型案件も手がけた。
案件はすべて「紹介」から
現在進行中の案件は、いずれも紹介がきっかけだ。たとえばその一つは、監査法人時代に同じチームで世話になった上司——4〜5年前に独立している——の顧客が「IPOを目指したい」と聞き、提案につながったもの。
「自分から営業しに行くというより、紹介が多い。独立のご挨拶をしたら、そこから紹介につながることもある」。かつての職場の縁が、そのまま独立後の仕事の入り口になっている。
収入は数倍、ただし「価値を届け続ける」前提で
独立してまず痛感したのは「給料はどこからも湧いてこない」という当たり前の事実だ。しかも林さんの主戦場であるコンサルティング案件は、税務顧問のようなリカーリング型ではない。「継続的にお客様に価値を届けないと、売上は立たない。価値がなければいつでも切られる前提でやっている」。
その緊張感の裏返しとして、届けた価値は分かりやすく返ってくる。収入は勤務時代の数倍になった。想定外の苦労を尋ねると、返ってきたのは「風邪をひけないプレッシャー」。体調を崩しても誰も拾ってくれないからこそ、セルフコントロールを徹底しているという。
成功の秘訣——期待を上回り、関係を続ける
独立準備として何をすべきか。林さんの答えはシンプルだ。「どの職場でも、目の前の仕事に全力で取り組み、期待を上回る成果を出して、いい印象を持っていただく。そして辞めた後も、飲みに行くような関係を続ける」。紹介中心の受注は、その積み重ねの結果にほかならない。
「損得勘定は抜きにして、真摯に仕事に向かい合う。それが結果的に、独立してからもすごくいい方向に来ている」。テクニックではなく誠実さ——インタビュー全体から伝わる林さんの人柄そのものが、最大の営業資産になっている。
独立に向く人、組織に向く人
独立に向くのは「自由に生きたい人、自分の仕事の型をぶらさずにやりたい人」。そして「能動的に行動を起こせる人」だと林さんは言う。交流会で人脈を広げ、人の話から学びを取りに行くことにアレルギーがない人は向いている。
逆に、チームで動くことや人を育てることが好きな人、来た仕事はきちんとこなす受動型の人は、組織にいた方が生き生き働けるのではないか、とも。「『早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け』という言葉があるが、どちらも全然あり。適性を見るために一度独立してみるのもいいし、戻ることもできる」。
独立を考える会計士へ
独立のベストタイミングを尋ねると、林さんは「自分が提供しようと思っているサービスを、自信を持ってお客様に届けられる——一人でいろいろなものをコントロールして成果物を出せるという自負ができたとき」と答えた。時期は人それぞれでいい。
「独立会計士は、監査以外にどんなサービスラインナップを持っているかが差別化のポイントであり、面白いところ。自分なりの尖った武器を、どういう戦略で、何年かけて作るか。その覚悟ができれば」。うまくいく確証はなかったが、自分で会社を持ち、リスクを背負ってやってみたいという憧れは叶えておいてよかった——独立1年目の言葉として、これほど背中を押すものはない。